【意見書】《「消費者行政の一元化」を求める意見書》

2008年1月17日

「消費者行政の一元化」を求める意見書

主婦連合会

食品業界の相次ぐ表示偽装事件、住宅建材の偽造サンプル事件、衣料・日用品をめぐる原産地偽装、全国110万件におよぶ深刻な消費者トラブルなど、「衣食住」全ての分野で企業の悪質行為や反消費者的行為が続発しています。「消費者の権利尊重」を国の責務として盛り込んだ消費者基本法が制定されてもなお、消費者行政・消費者政策の未整備・立ち遅れが顕著であることを示しています。もちろん、企業不祥事の一義的責任は当該企業にあります。しかし、これほど不祥事が頻繁に発生する背景には、行政側にも不祥事を増長させ、消費者権利を侵害する行為を見逃す政策的欠陥があることを、これら一連の事件は物語っています。

政府は、生活安心プロジェクトを発動させ、従来の施策の総点検と、その見直しへ向けた検討に取り組んでいます。しかし、一つ一つの見直しが各省庁の「省益」を重視した整合性のない対症療法策として実施されるなら、いっそう多くの問題を先送りすることにつながり、消費生活の根本的解決に寄与しないことは、これまでの消費者政策の歴史を見ても明らかです。私たちは縦割りの消費生活をしているわけではありません。

主婦連合会は、消費者基本法に明記された消費者の権利の実現へ向け、以下の点から、「消費者行政の一元化」を強く求めます。

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1) 縦割り行政の弊害

現在の消費者行政は、各省庁が製品・サービス分野、業界・業態分野別にそれぞれ管轄する「縦割り体制」を特徴としています。製品・サービスごとに所管省庁が存在し、それぞれの産業分野を業法で管轄する仕組みとなっています。この仕組みは、これまでの生産重視の産業育成の観点からは確かに有効なシステムだったと言えます。

しかし、その一方、この行政の仕組みは、消費者の視点よりも生産・企業の視点からの政策立案・遂行を促し、結果的に消費者保護に敵対・消極的とならざるを得ない構造を有しています。消費者基本法は消費者政策の推進へ向け、国の責務として「消費者の権利の尊重」「消費者の自立支援」を規定していますが、現状の縦割り体制はこの消費者政策遂行に大きな障害となります。実際上も、権限のない内閣府が消費者行政の調整役を担いつつ、事業者規制の権限を持つ監督官庁が消費者政策を実施するという構造となっており、結果として消費者政策が十分展開されず、生産重視策とならざるを得ないものです。「生産重視から生活者・消費者重視へ」と消費者政策を推進させていくには、まずもって、この縦割り行政体制を根本から転換させ、真に消費者行政を展開させる環境整備となる構造的改革が必要です。そのための緊急を要する不可欠の改革こそ「消費者行政の一元化」です。

現状では、消費者行政が縦割りとなっていることで、次のような深刻な消費者問題が発生しています。以下はその一例に過ぎません。

2) 確保されない安全性

総合的事故防止策が採用されない(安全性対応が官庁間でバラバラ)。

身の回りの製品・商品の事故の未然防止・拡大防止のためには、少なくとも、消費者に関連するすべての製品・商品に関する「事故情報の報告義務」「事故情報の社会的共有化」「リコール社告の改善」が必要となる。昨年5月に改正消費生活用製品安全法が施行され、事故情報の報告義務・公表制度が導入されたが、これは「消費生活用製品」を対象としたものであり、こんにゃくゼリーや健康食品など食品分野には適用されない。こんにゃくゼリーで死亡事故が起きても事業者には報告義務はない。「事故情報の社会的共有化」でも、その核心は、消費者に事故情報が公表されることだが、消費者が身近に使う製品による事故であっても法的管轄の違いで情報を収集する機関が異なる。経済産業省、国土交通省、厚生労働省、農林水産省、内閣府、消防庁など、管轄官庁によって公表体制も異なっている。「リコール社告の改善」にしても、JIS化の動きがある一方、JISの対象外となる食品分野の規格化は進んでいない。このように、製品・商品ごとに縦割り行政であることから、事故防止策についても製品・商品ごとに整合性が保てていない。

デスクマットに塗布されている化学物質の管轄は本来厚労省だが、経済省に皮膚炎の事故情報が寄せられ、その結果、公表は遅れた。その他、おもちゃの安全性でも縦割りの弊害が指摘される。おもちゃ自体は経産省の管轄だが、鉛などの物質含有に関しては厚労省の管轄となる。

主婦連合会は事故関連情報の収集・提供をはじめ、事故の未然・拡大防止を一元的に管轄する「事故防止センター」(仮称)の設置もずっと要求してきた。消費者行政の一元化はこの「事故防止センター」の機能も併せ持つことが必要となる。

3) 消費者に届かない表示

製品・商品の注意喚起表示を含む表示の規制に整合性がない。食品表示では、JAS法(農林水産省)、景品表示法(公正取引委員会)、食品衛生法(厚生労働省)、不正競争防止法(経済産業省)など、いくつかの規制法があるが、昨年の偽装表示問題では、再発防止へ向けた実効性ある機能を有していないことがわかった。

アルコール飲料を例にしても、管轄は国税庁、厚労省、公取委、警察庁とまたがっている。アルコールについてはそれぞれが管轄法に基づき縦割りで規制している。未成年者飲酒、妊産婦飲酒への警告表示も管轄が異なり、実効性ある政策がとれない。低アルコール飲料の容器の図柄を見ても、清涼飲料水には厳しい基準があるが、品名が「酒類」(アルコール分1%以上)となったとたん緩やかな業界団体の自主基準になる。

誤認表示については公取委(景表法)のほかに、経産省(特商法)や厚労省(栄養改善法)も管轄している。事業者規制にアンバランスが生じている。景表法では今国会で課徴金を課す法改正が予定されているが、現在までのところ、不当利得の吐き出し制度の導入には至っていない。事業者は「売り得」、消費者は「買い損」のままである。

4) 売り得・買い損の定着と遅れる被害救済(取引分野)

縦割り行政の弊害は消費者取引分野でも顕著となっている。クレジット契約や特定商取引は経産省、サラ金は金融庁、金融商品トラブルは金融庁、商品先物は経産省と農水省、さらに詐欺的商法は警察庁、と契約内容や商品別に管轄官庁が異なっている。それによって救済制度も異なっており、消費者トラブルの解決の困難さが指摘される。

介護保険制度については、介護の契約問題には消費者契約法が適用されるが、介護サービスの「質」や、施設内事故については自治体の所管部署および厚労省が管轄している。各地の消費生活センターでは介護問題を別の部署に回すセンターも多く、今後、高齢社会進展へ向け、大きな課題になると指摘される。

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「消費者行政の一元化」は、少なくとも、「安全性」「表示」「取引」の3つの分野を網羅することが求められます。消費生活で最も大切な分野であるためです。当然、安全性が確保されずに被害が発生した場合や、表示が不備な場合、さらに不当な取引で被害を受けた場合の「消費者救済」の措置も「一元化」には含まれます。

英会話教室大手「NOVA」との解約交渉が各地消費生活センターで困難となった理由の1つとして、2002年に経産省がNOVAの解約条項を「合理性が認められないとはいえない」と各地センターに示したことを挙げるセンターが多いことが昨年8月、国民生活センターの調査で分かりました。センターの相談窓口で問題視されながら、結果的に業法の管轄官庁がNOVAに「お墨付き」を与え、トラブルが深刻化していったことが推測されます。全国での消費者苦情相談が110万件の高水準を維持している1つの要因も、このような消費者行政の縦割り対応にあることを指摘しておきたいと思います。

以上