2009年7月30日
酒類の広告審査委員会
ビール酒造組合
日本洋酒酒造組合
日本蒸留酒酒造組合
日本酒造組合中央会
日本ワイナリー酒造組合
日本洋酒輸入協会 宛
《テレビのアルコールCMの規制強化に関する要望書》
日本アルコール問題連絡協議会
*特定非営利活動法人アスク
アルコール薬物問題全国市民協会
日本アルコール関連問題学会
日本アルコール精神医学会
主婦連合会
WHOは2005年、「アルコールの有害な使用に起因する公衆衛生問題」に対処するための決議を採択。加盟国に対して、効果の上がる予防対策の実施とその報告を求めました。
日本では、近年、女性の飲酒率が急増して20?30代では8割を超えており、中高生の飲酒行動に関する調査でも中学1年では女子が男子を上回るなど、女性の飲酒問題の広がりが指摘されています。
アルコールの害を受けやすい女性の特性から、厚生労働省「健康日本21」でも、「女性は男性よりも少ない量が適当である」とされています。ところが、大手メーカーのサイトに掲載されているCMを分析したASKの「アルコールCM調査2009」(別紙)によると、いまや女性は男性と同等かそれ以上の戦略的なターゲットになっていることが浮き彫りになりました。
また、ほぼすべてのCMが飲酒シーンや効果音による「直接的に飲酒をそそる手法」を用いており、昼間の飲酒が全体の6割で、「一人酒」のシーンも6割にのぼることが判明。アルコール依存症につながりやすい「昼間の一人酒」を、リスクが高い女性にこぞって推奨している形になっています。
未成年にも見えるような20代前半の童顔のタレントの起用、子どもっぽいしぐさ、子どもの遊びやメルヘンの世界、若者に人気の音楽やタレント、イッキ助長につながるような表現、ヨットや岩場など危険な場所での飲酒もありました。
このようなCMが、日本では平日の18:00以降、週末・休日には12:00以降ずっと、大量に流されているのです。私たちは、酒類メーカーがとるべき予防対策の筆頭はCMの自主規制であり、それを行なわずに他のどんな活動をしても、社会的責任を果たしているとは言えないと考えます。
日本にも、酒類業中央8団体が策定した「酒類の広告・宣伝に関する自主基準」がありますが、国際的なレベルには到底達していません。その自主基準すらきっちり守られていない現状、8団体に属していない企業(例えばJINRO JAPAN)は自主基準の枠から漏れてしまうという問題も、今回のCM調査によって明らかになりました。
「アルコール飲料の責任ある広告と販売は、酒類業界全体の優先課題であり、それを業界の自主規制によって達成していく」とした、2006年の「自主規制に関するアジア太平洋地域ワークショップ・東京宣言」の趣旨に則り、日本の自主規制を国際水準に引き上げるよう、以下の項目を強く要望します。なお、これらの多くは先進国では常識となっていることを申し添えます。
<要望事項>
1)時間規制の強化
「土・日・祝祭休日・振替休日・1月2?3日は5:00?12:00/月?金は5:00?18:00」という現在の自主規制を、 通年「5:00?22:00」にする。
2)「直接的に飲酒をそそる手法」の禁止
「飲酒シーン」の描写と「効果音」(ゴクゴク喉を鳴らす/プシュッと缶を開ける/トクトクと注ぐ/カランと氷がぶつかる/シュワーと泡が立つ/プハーッと飲み終わるなど)の使用を禁止する。
3) 「子どもの目を引く表現」の禁止
・起用するタレントは25歳以上とする。成人であっても、未成年にも見える童顔のタレントは起用せず、子どもっぽい動作やふるまいは行なわない。
・子どもの世界(子どもっぽいしぐさ・子どもの遊び・玩具・メルヘン・ファンタジー・キャラクター・アニメなど)を描かない。
・子どもが覚えてマネするような踊りや節回しを用いない。
・若者文化(言語・音楽・踊り・ジェスチャーなど)を反映させたり連想させる表現を用いない。
4)ハイリスクである女性への配慮→CMに女性を起用する際には「注意表示」を義務づける
★女性をメインキャラクターに用いない。(参照:日本たばこ協会の自主基準には、製品広告について「女性の喫煙ポーズを描写したものでないこと」という条項があります)
★あえて用いる場合は以下の注意表示を義務づける。
(1)妊娠・授乳期のリスクについての警告
(2)女性がアルコールの害を受けやすい(ハイリスクである)ことへの警告
5)依存に誘導しないための配慮→CMに以下の表現を用いる際には「注意表示」を義務づける
・酔いの高揚感・陶酔感の奨励、および酩酊を示す(暗示も含め)表現を行なわない。
・アルコールが興奮・鎮静・気分の変化・リフレッシュ(心身をさわやかに、元気にすること)
・自信の向上をもたらすと印象づけるような表現は行なわない。
・アルコールが人生に充実感をもたらすと印象づけるような表現を行なわない。
・アルコールが必要不可欠なものであると印象づけるような表現を行なわない。
・一人酒/昼酒/寝酒がよいものであると印象づけるような表現を行なわない。
★あえてこれらの表現を用いる場合には、「アルコールには依存性があります」との注意表示をする。「お酒は楽しくほどほどに」では警告にならない。
6)その他の注意事項
<過度の飲酒を助長しない> 早飲み・イッキ飲みや過度の飲酒を連想・暗示させる表現を行なわない。(飲み干す/おかわりする/どんどん・スイスイ・ぐいぐい・ぐびぐびなどの表現)
<スポーツや飲酒に危険な行為とからめない> 飲酒しながらでなくても、スポーツなど激しく体を動かす場面を挿入しない(イメージで飲酒とつながってしまう)、足場の悪い岩場やヨット、川・海なども含め、飲酒に危険な場所をCMに用いない。
<美容や健康によいと思わせるような表現をしない> 健康によい成分が入っていても、カロリー・糖質・プリン体が少なくても、アルコールとしての健康リスクがある。
<性的な表現をしない> 性的な表現やそれを暗示するような表現、性的魅力のアピールをしない。
<チューハイ、カクテル等の果物・野菜の表示は「果実飲料等の表示に関する公正競争規約」に準じる> 「果汁入り飲料(果汁の使用割合が10%以上100%未満)およびその他の飲料にあたっては、果実から果汁のしずくが落ちている等の表示および果実のスライス等の表示は不当表示に該当する」「果汁の使用割合が5%未満のもの及び果汁を含まないものにあっては、果実の絵を表示することは不当表示に該当する。ただし、図案化した絵は差し支えないものとする。
以上
<現状のCMの問題点と抗議>
ASKのCM調査でとくに問題となったCMのリストです。この書面をもって、正式の抗議とします。「酒類の広告審査委員会」及び各組合におかれましては、該当メーカーに通知するとともに、対応に関する報告を2009年9月4日までにASKまでご提出ください。
●サントリー・カロリ。…水のブランコ、フラフープ、大縄跳び。妖精のような女たちが子どもの遊びを次々繰り出し、果物が飛び散る(果汁2%なのに)。アルコールに見えない。子どもの目を引く。
・カクテルカロリ…果物と果汁を強調(果汁1.8%)。
・ダイエット生…たくさんの風船をつけて人を空に浮き上がらせる。
(1)子どもが興味を持つ。
(2)飲酒して盛り上がりやっているように見える。若者がグループで飲んで危険な行為をすることは実際によくあることで、その助長につながる。
(3)「今年こそ、ダイエット」と、商品名とダイエットするという行動をダブらせたメッセージを発している。飲酒自体はダイエットの大敵である。自社の他銘柄に比べてカロリーが少ないという情報にとどめるべき。
(4)加藤ローサは童顔であどけない表情が、10代のようにも見える。
・ほろよい…堀北真希は21歳で10代のようにも見える。「ほろよいって?」「素直になれる。一番心が開く状態」「だから話したくなるんだ…」と、アルコールによる酔いのメンタル面への効用を強調。
●キリンビール・淡麗ストレート…「冷やし焼酎はじめます」の文字とナレーション、「ソイヤ、ソイヤ、ソイヤ、ソイヤ」の掛け声に続いて、「そのままスイスイ アルコール12度」というテロップは、イッキ飲みを連想する。DAIGOの起用は、未成年者の関心を引く。
・スパークリングホップ…メルヘンの世界。子どもの目を引く。
・氷結アペリティフ…「人生なんて退屈ね」「いいえ、恭子。氷結アペリティフがでたじゃない」というやりとり、人生の空しさをアルコールで埋めるかのように聞こえる。依存症的な世界を肯定している。果物のしずくを強調したバージョンもある(果汁3.5%なのに)。
・氷結シリーズ…スタンダードは飲酒シーンのあと、グラスを持った深田恭子が波打ち際に入ってぐるぐる回って踊る。氷結ストロングは飲酒シーンのあと、海辺の崖の上で踊る。氷結早摘みは飲酒シーンのあと、ヨットの上で女性3人がグラスを持って歌う。どれも危険。
・淡麗ダブル…イメージの中で、サーフィンと飲酒場面が重なる。
・ストロングセブン…荒涼とした大地、足場の悪い岩場で飲酒。危険。
・一番搾り…大リーガー・イチローの起用は、未成年者の関心を引き、アルコールに親近感を抱かせる。
★調査後に「コーラ・ショック」が発売。欧米でAlcopopsと呼ばれ、未成年者飲酒が大きな問題となっているジャンル。しかも今回CMに起用したのは21歳になったばかりの黒木メイサである。
●アサヒビール・アサヒスーパードライ…音楽と踊りの若者の群像。登場人物に未成年がいてもおかしくない情景が続く。若い女性がビールを冷蔵庫から出して開け、その後の場面では缶を持って激しく踊っている。「夢に向かって、明日に向かって、心が自然と奮い立つ。スーパードライはそんな瞬間を届けたい」というナレーションと「キモチが駆けあがる」というキャッチによって、酔いの高揚感をアピール。
・すらっと…大塚愛が「待っててね」「人気だよ」と、友達言葉で語る。20代後半ではあるが、10代のようにも見える。果物のスライスも使われている(果汁3%なのに)。
・トマーテ…画面全面にトマト。ジュースと誤認する(果汁45%)。
・アサヒオフ…堤真一が川の中に入って飲んでいる。危険。
・企業広告・クリアアサヒ…大リーガー・松坂大輔やビーチバレーの浅尾美和の起用は未成年者の関心を引き、アルコールに親近感を抱かせる。
●サッポロビール・ヱビスビール…小泉今日子があぐらでビールを飲み干し、「もう1本」とおかわりを取りに行く。厚労省「健康日本21」では、「女性は男性よりも少ない量が適当である」とされているのに。過度の飲酒を肯定する表現である。「今日が楽しめない人は明日も明後日もきっと楽しめないですよね」というコピーも、飲酒が充実感を与えるかのようである。
●チョーヤ・ウメッシュ…若い女の子が風船を追いかけ、缶を持って家中を飛び回るようすが、子どもの目を引く。童顔で子どもっぽいしぐさの宮崎あおいは10代にも見え、アルコールを飲んでいるようには見えない。もしアルコールだと認識して見たら、真昼間から片時も缶を手放さないようすは依存症を連想させる。「ゆっくりの日、すっきりの日、まったりの日、にっこりの日、なんだか毎日幸せの日、ウメッシュは幸せ梅酒」という歌が流れるが、そんな飲み方をしたら、本当にアルコール依存症になる。(ウメッシュでは、かつて工藤夕貴が「私って一回好きになるとけっこうのめり込んじゃうタイプなんだよね。こうなっていると安心する」と言いながら冷蔵庫を開けると、ウメッシュの缶で全面埋まっているというCMもあった。依存症への意識がなさすぎる)
・ウメッシュゼリー…女性3人が踊る「シュッワ?」という歌と振りは、子どもが覚えて真似をする。子どもの気を引いておいて、「子どもはダメダメ」「お酒です」と言えばいいということではない。・さらりとした梅酒微炭酸缶…若い女性が炭酸の泡に全身を包まれる。ソーダのCMに見え、子どもの注意を引く。
・蜂蜜梅酒…若い女の子がバランスボールで遊ぶ。子どもっぽいしぐさが10代に見える。「気にしない、気にしない。お砂糖がないから気にしない」「蜂蜜梅酒で元気にいこう」の歌も、飲酒してもダイエットに支障がなく、しかも飲酒によって元気になるかのようなメッセージを送っている。
・黒糖梅酒…「とろりんちょ」とぐにゃりと顔と体が曲がるCGは、黒糖のとろける感じを表現しているのだろうが、酔いの陶酔感を表わしているようにも見えてしまう。「とろりんちょ」という言葉も覚えやすく、CGとあいまって子どもの目を引く。
●月桂冠・すべて米の酒…伊原剛志の「自分の人生これでいいのかなって時もあっていいけど、オレの人生これでいいんだって時もないとね」という語りは、酔っ払いの口調を思い起こさせる。
●宝酒造・直搾り…手でレモンを搾り、果汁が飛び散る。しかし果汁3.5%。
●JINRO JAPAN ・Sparkling JINRO…若者のコンパを下敷きにしている。ヨーロッパ中世の貴族に扮した人々が「飲んで、飲んで、飲んで」というイッキコールの節回しで、「JINRO JINRO JINRO」と言い続ける。合間に以下のばかばかしい駄洒落。「今夜は合コン。彼はマザコン」「幹事はモリアゲ。すっごいモミアゲ」「彼女はセレブ。彼はハイレグ」「今日はオツカレ、彼はモトカレ」。子どもの関心を引く。しかも最後には、「毎日がシャンパン気分」。
・JINRO…「Everybody飲みニケーション、人が集まりゃ、飲みニケーション」とラップに乗り、上司と部下、夫と妻とさまざまな飲みの場面が現われる。人のつながりには飲酒が欠かせないといった主張をずっと繰り返す。ラップを歌う中年男性のトーンや笑い声は、酔った雰囲気。「人類ミナJINRO」というコピーもアルコールとしてはやりすぎである。
【連盟】
日本アルコール問題連絡協議会、*特定非営利活動法人アスク(アルコール薬物問題全国市民協会、日本アルコール関連問題学会、日本アルコール精神医学会、主婦連合会
*特定非営利活動法人アスク
加盟団体:特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)/イッキ飲み防止連絡協議会/アディクション問題を考える会(AKK)/(社)全日本断酒連盟/日本アルコール・薬物医学会/日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会/日本禁酒同盟/(財)日本キリスト教婦人矯風会/日本禁酒禁煙協会