【要望書】《消費者行政の充実・強化へ向けた要望》

申し入れ・要望

 2013年1月24日

内閣総理大臣
消費者担当大臣
消費者庁長官
消費者委員会委員長 宛

消費者行政の充実・強化へ向けた要望

主婦連合会

【実効性ある施策を求めます】

消費者庁・消費者委員会という「新たな消費者行政体制」が誕生し、今年9月ではや5年目を迎えます。しかし、消費者目線から司令塔的機能を発揮するとされた新体制については、その運用と実効性をめぐってなお、懸念が指摘されているのが現状です。総合的・統一的な消費者行政の推進が志向されるものの、「新たな縦割り行政」の萌芽すら垣間見えるのが実態です。

「モデル無き新消費者行政体制」は、パラダイムの転換を謳う変革の対象であることから、本来なら、変革期特有のダイナミックな政治主導によって、ぐいぐいと、新しい施策を提起・導入し、旧来の消費者行政の限界、その殻を打ち破り、設置法で規定された「消費者の権利の尊重」という「消費者目線」を軸にして、消費者行政推進・充実化への道をまい進することが期待されていました。

しかし、その実態は、所管・共管する法律の整合化へ向けた法改正すら提起されることなく、消費生活に密接に関連した「安全」「取引」「表示」の分野では、対症療法的な施策展開が常態化しているのが実態です。担当大臣がわずか数カ月間でめまぐるしく交代し、適正な政治主導ができず、従来と同様の省庁間調整が日常化し、地方消費者行政への支援策の後退や根本的対策の導入が未実施のままであることなど、ここ3年半の消費者行政は、当初の期待からは大きく立ち遅れているのが実態です。

主婦連合会は、これまで一つ一つの課題に対し、その都度、消費者行政のあり得るべき対応を関係行政機関、担当大臣などに提起して参りました。しかし、そのほとんどの意見は軽視されてきたのが実態です。

2013年を迎え、政権交代の時期に、改めて次の5事項を要望します。

(1)国民生活センターの組織再編について根本的再検討を

主婦連合会は、国民生活センターの消費者庁への一元化について、ここに改めて反対を表明するとともに、同センターの機能強化へ向け、同センターの現在の課題も含め、消費者庁、消費者委員会のあり方をも踏まえた根本的検討に着手することを要求します。

内閣府及び消費者庁は昨年以来、国民生活センターについて、消費者庁に一元化し、「特別な機関」として位置付けることを予定し、実際、その方向性を社会的に表明し、消費者団体に対しても、その旨を担当官が繰り返し主張・説明してきました。

これに対し、主婦連合会は、そのような措置は、同センターの機能弱体化を招き、消費者行政の後退につながるものとして、断固反対を主張して参りました(第3回 国民生活センターの国への移行を踏まえた消費者行政の体制の在り方に関する検討会(平成24年3月14日)http://www.anzen.go.jp/kentou/pdf/0314_shiryou1-3.pdf 参照)。予定される「特別な機関」もあいまいなままであり、本当に国民生活センターの独立性を維持し、消費者行政全般の充実・強化につながるものなのか、全く明確ではありません。その観点から、主婦連合会は次の点を要望いたします。

【要望項目】

1.国民生活センターの消費者庁への「一元化構想」、及び「特別な機関」への「組織変え構想」を白紙撤回し、独立した機関としての位置付けを明確にすべきです。

2.そのために、これまでの検討の中で提起されながら、「一元化優先」のために軽視されてきた同センターの課題・問題を広く明らかにし、同センターの機能強化への実効性ある措置を導入すべきです。

3.その検討に当たっては、まず、国会付帯決議に沿って国民生活センター、消費者庁、消費者委員会のあり方を議論すべきです。

4.さらに検討を踏まえ、地方消費者行政との連携・強化のあり方など総合的な消費者行政の推進に向け、消費者の権利の尊重と利益優先の観点から捉え直して下さい。

5.特に、消費者への情報提供のあり方については、現在のように、行政間の共有化にとどめる姿勢を改め、社会的共有化を担保するシステムを総合的に検討・導入されることを求めます。

6.国民生活センターの基本的機能はそれぞれが不可分一体のものですが、それらが有機的に稼働し、全体的に機能アップにつながる方向性を示す実効性ある措置を講ずるべきです。

7.これらを実現するには、従来のような、消費者庁の管轄分野だけに依拠する「行政縦割り」方式で取り組むのではなく、各省庁の垣根を越えた検討体制を、まさに「司令塔」の気概をもって、構築して下さい。

(2)食品表示一元化に消費者の意見を

食品表示の一元化は消費者・消費者団体の長年の要求です。消費者庁は今年3月までに新表示法案を策定し、国会に提出する予定とのことです。しかし、提示された「制度案」を見る限り、その内容は依然として、消費者・消費者団体の意向に沿うものではありません。消費者庁の「案」では様々な表示問題が対象に含まれない可能性があり、新たな「すき間」を生じさせます。

一番の問題点は、関係省庁の枠を越えた検討が求められているのに、消費者庁の管轄範囲内の、狭い土俵で検討されていることです。

主婦連合会は、消費者目線からの改善こそ必要とし、以下の観点から抜本的な食品表示法の制定を求めます。

【要望項目】

1.新食品表示法案に、明確に、「消費者の権利」を明記して下さい。

2.今回の法案は、食品衛生法、JAS法、健康増進法の3法のみを検討対象にしていますが、法案策定にあたっては、景品表示法、酒税法など、3法以外の表示関連法律についても、実態に則して整合化の対象に含めるべきです。

3.誤認表示の規制も法対象にし、いわゆる健康食品の適正表示のあり方についても盛り込むべきです。

4.「内閣府令」や「告示」で規定され、検討が後回しにされる「加工食品の原料原産地表示」「食品添加物表示」「遺伝子組換え表示」などの改善についても、法案策定過程と同時に実施して下さい。

5.アルコール表示、製造所固有記号、水分表示などの表示についても、検討対象に含め、消費者に適正な表示を提供する仕組みを盛り込んで下さい。

6.そのような検討を深め、消費者の意見を適正に新表示制度に反映させるために、消費者代表や、消費者の意向に沿って適正表示を実施しようとしている事業者代表を含めた検討会を早急に設置し、その検討内容を公開して下さい。

(3)健康食品問題への対応を積極的に実施し、消費者被害の防止を

主婦連合会の長年の取組の一つに「いわゆる健康食品の適正化」もあります。全国の消費生活センターには、健康食品に関する苦情相談が過去6年間で1万2千件から1万6千件台という高水準で毎年寄せられています。食料品の半数近くを占めているのが健康食品の苦情相談です。

その被害は多岐にわたり、過剰摂取による安全性の問題、誤認・誇大表示による不当表示の問題、訪問販売・マルチ商法などによる高額取引の問題など、深刻事例もあとを絶ちません。「がんに効く」などの説明で健康食品を強引販売され、適正な医療を受ける機会を逸した刑事事例も数多く存在します。

にもかかわらず、健康食品については、消費者への注意喚起に重きが置かれ、製造・販売についての適正化も業界の自主基準などに依拠したままであり、実効性ある措置がとられず消費者被害が放置されているのが実態です。昨年12月に提起されると公表されていた消費者委員会の各省庁への「建議」も先延ばしにされたままです。

主婦連合会は、健康食品をめぐっては、今後の高齢社会の進展に伴い、現状のままでは一向に消費者被害は減少せず、かえって深刻化すると考え、以下の項目に沿って、当面の、早急な対応を採るべきであると要求します。

【要望項目】

1.現在検討されている「食品表示一元化法案」(新食品表示法案)に健康食品の誇大・誤認表示の是正措置を盛り込んで下さい。

2.過剰摂取が心配される錠剤・カプセル型健康食品については、成分・商品、および製造会社や工場をきちんと把握するための登録制などの措置が必要です。

3.医薬品との併用や二種類以上の健康食品の併用については安全性の観点から警告表示の実現を図り、そのような表示を監視する法執行体制を強化して下さい。

4.法執行体制の強化にあたっては、中央・地方の連携を図り、各種関連法の整合化も推進して下さい。

5.依然として明確な判断を示せないでいる消費者委員会に対しては、消費者被害防止へ向けた強力な措置を各省庁に「建議」するよう求めます。

(4)消費税率アップの白紙撤回を

消費税は、その仕組みから、あまねく一律に消費者から徴収する不公平な大衆課税であり、その税率アップは、格差を拡大させ、消費をいっそう減退させ、社会保障制度が不十分な中では、消費生活にさらなる不安定要因をもたらすものです。

新政府は、来年4月からの8%税率アップの条件として、デフレ経済からの脱却を提示されていますが、その検証にあたっては、生活感覚に基づく消費者目線からの明確な指標が示されておらず、私たちは大きな疑問を感じています。膨大な借金を前提に大規模な財政導入策である「緊急経済対策」が閣議決定されましたが、その財源に消費税が当てられるのではないかとも考えられ、非常に心配しています。

主婦連合会では、くらしを直撃する消費税率アップを実施しないよう、以下の点を要望します。

【要望項目】

1.消費税は不公平な逆累進課税であり、国の財政政策の責任を消費者からの増税で補うことは止めてください。消費増税の前提となる国家財政の無駄を省く措置が一向に国民・消費者には見えてきません。

2.国民・消費者は、昨年12月の衆院総選挙で民主党のマニフェスト違反に対してノーを突きつけたのであり、消費増税に賛同しているわけではありません。この点を新政府は、謙虚に、真摯に受け止めて下さい。

3.デフレ脱却の条件については慎重に検討し、国民・消費者が納得できる検討結果を公表し、国民・消費者に十分な説明を尽くして下さい。

4.国論を2分する消費増税のような重大問題について、消費者行政は消費者目線からの対応をもっと積極化させて下さい。

5.食料品などの生活必需品に関する軽減税率・分離課税などが提案されていますが、それらについては、広く、国民・消費者を含めた議論を尽くし、そのような検討体制を整備してください。

(5)TPPについて政府は参加中止の決断を

先の政権は、国民・消費者の意見を聞くことなくTPP(環太平洋経済連携協定)に参加することを国際的に表明し、国民・消費者から強い批判・反対を受けました。12月の総選挙でも「TPP」は「争点」の一つとなり、参加を表明していた政権与党の大きな敗北の一因となりました。新政府は、この事実を厳粛に、真摯に受け止め、早急に「TPP参加中止」を決定・表明すべきです。

主婦連合会は、TPPへの参加が消費生活に重大な影響を与えることを踏まえ、反対を表明し、政府に対し、参加中止を要求します。

【要望項目】

1.TPPは、物品関税の完全撤廃だけではなく、非関税障壁や国内各種制度の撤廃も前提にする協定です。協定に参加してから例外規定が設定できるかのような交渉依存の政府判断は甘いものと思わざるを得ません。

2.TPPは、食料の自給率を低下させ、国内農畜水産物に壊滅的な影響を与えます。食料自給率向上を図ることこそ、消費者利益に合致するものです。

3.TPPは消費生活に密接な安全基準を緩和・撤廃させ、長い期間にわたり消費者運動が勝ち取ってきた各種制度・システムを崩壊に導きます。食品添加物の新規指定、残留農薬基準、環境安全基準、国民皆保険制度などの緩和・国際整合化の動きも加速されます。

4.TPPは、他国の企業が、貿易障壁に当たると判断した場合に、日本の当該行政機関を訴えることができる権利を企業に与えるISD条項を含みます。これによって、遺伝子組換え表示をはじめ、不十分ながらも日本で採用されている各種制度・システムもその対象に入り、本来は改善こそ必要なのに、その対策が不可能となります。

5.TPPは、地域経済を直撃し、多くの中小零細企業の破綻を招くものとして、事業者からも懸念が表明されています。地域コミュニティーの再生に深刻な影響を与えます。

以上