2012年6月22日
消費者委員会委員長 宛
消費者委員会「健康食品の表示等の在り方に関する考え方」について再考を求めます
主婦連合会
消費者委員会は6月5日、「健康食品の表示等の在り方に関する考え方」(以下、考え方)を検討し、委員の間で了承を得たとし、今後の消費者委員会の検討へ向け、「一つの方向性を示す」「考え方」として発表されました
しかしその内容は、いわゆる健康食品の深刻な問題点をあいまいにしたもので、それゆえに、いわゆる健康食品が持つ喫緊の課題を解決していく「方向性」を提示することにはなっていないと考えます。
仮に、消費者委員会が「違反表示を取り締まる法執行の強化」を提唱するのなら、具体的な法執行体制や法制度のあり方についてこそ提案すべきであり、いつまでもあたり障りのない抽象論で足踏みしていては遅きに失します。それほど現行の法執行体制は深刻な状況です。
今回の「考え方」で最も問題と思われるのは、事前に実施されたアンケートの集計・分析結果、およびそれらを前提として提唱された施策の方向性について、消費者委員会が「消費者目線」を掲げながら実際は「混乱」を生じているのではないか、と思われることです。
「健康食品の機能性表示(効果効能表示)を多くの消費者が求めている」との集計結果が出たとのことですが、その要求に沿って機能性表示を導入していくことが消費者の権利実現への方向性なのか、それとも、機能性を謳うようないわゆる健康食品の現行の勧誘・販売のあり方にこそ問題があり、それを適正化していくことが消費者の権利実現に沿うことなのか、今回の「考え方」はその点への視点が極めてあいまいです。消費者委員会は、いわゆる健康食品に対する「消費者目線」についてどう位置付けているのか、姿勢が問われる内容ともなっています。
混乱をもたらしている背景の一つにアンケートがあります。「考え方」の前提とされた「一万人消費者アンケート調査」は健康食品の定義の中に「特定保健用食品」(トクホ)と「栄養機能食品」を含めて実施されました。そのために、今回の「考え方」の中で登場する「健康食品」という言葉には、トクホと栄養機能食品が含まれることになりました。それらを区分せずに集計・分析したことで、それぞれの食品群が持つ問題点があいまいとなり、施策方向にも矛盾が生じる箇所が散見します。
消費者委員会がなぜこのような内容のアンケートを実施し、区分しないままに集計・分析・結論づけたのか、疑問なしとしません。委員間で本当に十分な審議が尽くされたのでしょうか。
主婦連合会は、当連合会で実施したアンケート調査結果などを踏まえると、今回の消費者委員会の「考え方」には違和感を覚えます。下記に挙げた《「考え方」の問題点》を考慮し「健康食品の表示等の在り方に関する考え方」を再考されることを強く要望します。
《「考え方」の問題点》
1.アンケート対象者への質問の前提として、調査対象とする「健康食品」の中に「トクホ」「栄養機能食品」を一体的に含ませて実施したこと。
2.「考え方」は「消費者は健康食品を購入する際に、“効き目・有効性”を重視し、消費者はある程度価格が高くなっても機能性表示を求める傾向がある」と安易に結論づけています。その結果、多少価格が高くなっても「機能性表示」を多くの消費者が求めていることがわかったとして、いわゆる健康食品を対象に、機能性表示制度の導入が必要、と示唆しています。しかし、ここで使用されている「健康食品」という言葉には、トクホも栄養機能食品も含まれていることは前述の通りです。アンケートに回答した消費者が、「ある程度価格が高く」ても「購入する際に」「機能性表示を求める」対象が、トクホなのか、栄養機能食品なのか、いわゆる健康食品なのか、区分されていません。
3.いわゆる健康食品の重大な問題点である「安全性」「表示」「取引」の分野での課題(健康被害、誤認・誇大表示、法執行、事故情報収集、契約被害等)をトクホや栄養機能食品と混同してまとめたことで、いわゆる健康食品の問題点が散漫となっています。にもかかわらず、「考え方」は、機能性表示を求める消費者の「ニーズに応えるため」に、「特定保健用食品制度等の機能性食品に関する既存の制度を十分活用する視点も考えられる」として、アンケートの結果からは一歩踏み込んだ判断をしています。当日の消費者委員会の検討ではその具体化の一つとして「トクホの第5類型」を創出すべきことも提案されました。現行トクホや栄養機能食品制度の問題点も考慮しないままに、新たに機能性表示の制度創出を提案する点は、極めて安易といわざるを得ません。
4.いわゆる健康食品による消費者事故について、保健所への通報を消費者に促す周知徹底の提案だけをし、医療機関やメーカー、販売店からの通報のあり方、その制度のあり方を盛り込んでいない点で、アンケート集計に基づく現状分析が甘く、これまでの消費者委員会の検討からは後退していると考えます。
5.錠剤・カプセル型等、過剰摂取が心配されるいわゆる健康食品について、摂取目安量を表示することだけを「考え方」に盛り込ませていることは、これまでの消費者委員会の検討から後退しています。しかも、6月5日の消費者委員会では、摂取目安量の意味を「効果の目安」と説明する委員の発言がありましたが、これは「他食品などを併用する場合の安全性の観点も含む目安」という厚労省の通知の意味からは逸脱した発言ともとれ、認識をめぐっての十分な検討が必要です。
6.「考え方」は、いわゆる健康食品による潜在的健康被害や潜在的経済被害についての認識が弱く、一方で、研究段階にある機能性について、その表示制度の導入を提唱することで、いわゆる健康食品の推進を支持しているように見えます。それは消費者委員会の任務に照らして、誤った方向性であると考えます。
7.消費者に行政機関の情報活用を求めている点は、行政機関からの情報がどんな内容と意義を持つかを説明していない点で「考え方」全体に矛盾をもたらしています。例えば、国立健康・栄養研究所からどのような情報が発信されているのか、それをなぜ消費者は重視する必要があるのか、その意義が「考え方」には反映されていないことで、いわゆる健康食品の問題点が明確にされないまま「考え方」が作成されているというイメージを与えています。
最後に
いわゆる健康食品の問題点について、消費者委員会で取り組んできた各種専門家からのヒアリング内容や、昨年8月の「中間整理」などの視点とも異なる部分が拡大し、消費者に重大な誤解を与えかねません。
主婦連合会では、今回の一万人消費者アンケート調査結果の十分な精査と、アンケート調査結果を活かすために、いわゆる健康食品、トクホ、栄養機能食品を区分した問題点を明確にされ、適切な施策提言へ向けた「消費者目線」からの「考え方」を提示されることを強く求めます。
以上