2016年2月15日
内閣総理大臣
内閣府消費者担当大臣
消費者庁長官
消費者委員会委員長 宛
特定商取引法・消費者契約法 見直しについての意見
主婦連合会
現在消費者庁は、本年1月7日の消費者委員会の答申に基づき、特定商取引法、消費者契約法の改正法案等の作成作業に入っています。
答申のもととなった消費者委員会の専門調査会報告書の内容は、消費者の利益擁護の観点からいくつかの前進が見られるものであり、それらの事項については、速やかに法改正等の措置がとられることを求めるともに、今回の検討で見送り、先送りとされた重要な論点について、以下の通り意見を述べます。
記
■速やかに法改正を行なってください
消費者庁が作業中の法改正事項の骨子案によれば、特定商取引法における指定権利制の見直し、電話勧誘販売への過量販売解除権の導入、アポイントメントセールスの呼出し手段としてSNSと電子広告を適用対象に追加、特定継続的役務提供への美容医療契約の追加等、また消費者契約法における過量契約への取消権の導入、取消権の行使期間の伸長等、答申が求めた措置につき、ほぼ忠実に盛り込まれており、この骨子案から後退することなく条文化され、確実に法改正が行なわれることを求めます。
■特商法の指定権利制について
法改正事項の骨子案によれば、“規制対象となる権利に、社債、株式等を追加し、「特定権利」とする。”とあり、当初期待された指定権利制の廃止ではなく、役務と権利の概念を整理し直すという方法がとられることが示唆されています。これについては、役務と権利の概念が適切に整理されることにより、適用対象にすき間を生じさせないことを前提として賛成し得るものです。被害の後追いという状態に再び陥ることのないよう、確実な規定を求めます。
■特商法専門調査会で見送りとなった勧誘規制について
不招請勧誘(消費者が要請していない訪問勧誘、電話勧誘)は、国民の圧倒的多数が拒否感、不快感を示している勧誘方法であることは、消費者庁が行なった調査をはじめ、これまでの各種調査結果が明白に示しているところです。
今回の見直しでは、最低限、あらかじめ勧誘拒否の意思を何らかの手段(お断りステッカーや事前登録など)で示した消費者には、不招請勧誘を禁止する規制の導入が期待され、議論も活発に行なわれたはずです。しかしながら答申が踏まえた専門調査会の報告書において、規制の導入はもとより、それを求める意見があったことすら示されませんでした。今回の答申は、この点において、事業者の要望や意見をより重視する傾向が強いと言わざるを得ません。
「安全安心な市場」「良質な市場」の実現こそが競争の質を高め、消費者、事業者双方にとって長期的な利益をもたらす唯一の道であることは、平成20年、自民党政権において閣議決定された「消費者行政推進基本計画」にはっきり記されている通りです。国民の圧倒的多数が拒否感、不快感を示し、多くの消費者被害を生み出している不招請勧誘に頼ったビジネスモデルからの脱却こそ、将来の日本の社会を見据え、超高齢化社会である日本に暮らす市民の幸福な生活と、経済の安定的な成長の双方にとって必要なことである視点をもつことが求められます。
主婦連合会は、不招請勧誘は、訪問、電話、双方で原則として禁止とすることを一貫して求めてきました。最低限、あらかじめ勧誘拒否を何らかの手段で示した消費者には不招請勧誘を禁止する規制の導入を改めて求めます。勧誘拒否の意思を示している人に対してまで飛び込みで営業する事業者の自由が、人々が自分の家で、安心して過ごせる権利より優先するという合理的根拠はどこにもありません。
不招請勧誘規制につき、早急に検討の再開を求めます。
■消費者契約法で先送りとされた論点について
消費者契約法改正の答申でも、消費者が望んだ多くの改正点が先送りにされました。
専門調査会では、合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型について取り消し権を認めるかどうかが議論されましたが、これについては見送られ、不必要に過料な契約を締結した場合の取り消し権という形で答申されました。一歩前進とはいえ、高齢化、独居化が進む中で、判断力の衰えにつけ込むような契約には、広く取り消し権が認められるべきです。
また、不特定多数に向けた広告等であっても、これにより消費者が誤認をしたときは意思表示の取り消しができるようにするべきです。消費者契約法の目的は「事業者の一定の行為により消費者が誤認」した場合は、「契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる」ことにあります。この目的に照らせば、広告が勧誘にあたるかどうかが問題なのではなく、広告が、取引にあたって消費者を誤認させることがあるかどうかという点が問題です。誤認させる広告によるトラブル、被害が多数報告されていることから、先延ばしは更なる被害を招くものです。
情報化等の社会の変化のスピードに消費者政策が置き去りにされることなく、消費者の権利が守られ公正な市場が形成されるよう、今回積み残された論点につき、引き続きの検討を早急に開始することを求めます。
■PIO-NET情報の信頼性について
答申が踏まえた消費者委員会の報告書には「PIO-NET情報は、立法の必要性を厳密に基礎づけるデータベースたり得ず」、「PIO-NET情報の信頼性・立法の根拠の有無を中心とした議論が行なわれた」との記述があります。
消費者の苦情や相談をもとに消費生活の中の問題を抽出する方法は、消費者運動、消費者行政の基本です。その中から様々な政策提案がなされてきました。
PIO-NET情報を活用して消費者行政を企画立案していくことは、各省庁がまさに推進しようとしていることであり、これまでも数々の法改正の議論にデータを提供してきています。PIO-NETに関し、このように事実を誤認させるような記述が、反対意見の存在を無視する形で答申に盛り込まれたことは消費者委員会の姿勢として大きな問題であるといえます。今回の答申は、事業者の要望や意見をより重視することにより、消費者・生活者の視点での行政の推進が後退局面に入ったと感じられるほどです。
消費者庁、消費者委員会には、今こそ存在感を示すことを望むとともに、消費者の権利実現のための政策の検討、推進をより一層進めることを強く要望します。
以上