2018年6月19日
知的財産戦略本部 インターネット上の海賊版対策に関する検討会議 宛
政府による海賊版サイトへのブロッキングを可能とする法整備に反対します
主婦連合会
知的財産戦略本部は本年4月、「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」として、政府が指定する海賊版ウェブサイトに対してブロッキングを行うことが適当である旨の見解を表明しました。また同月の「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」という資料によれば、政府が「一定の要件の下でISP事業者に対してブロッキングの請求を行うことができる規定の整備等、海賊版サイトへのブロッキングが実効性のあるものとするための制度の整備」のため「法案を検討する」としています。
私たちはインターネット利用者の利益を著しく損なうこの検討を強く憂慮し、その実施に強く反対します。
政府による情報遮断の典型例に
特定サイトへのアクセスを政府からの要請でISP(インターネットサービスプロバイダ)に遮断させるブロッキングは、全ての通信を監視し特定サイトへのアクセスを選別する手法以外では実現されません。これは国民の憲法上の権利である通信の秘密を侵害するものです。通信の秘密は、個人の私生活の自由を保障し、自由なコミュニケーションの手段を保障するために必要不可欠な重要な権利です。このため憲法第21条第2項後段は「通信の秘密は、これを侵してはならない。」と規定しています。またこのような憲法の趣旨を踏まえ、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密については、電気通信事業法第4条及び第179条により罰則付きの保護が与えられています。
児童ポルノは緊急避難
2011年の児童ポルノのブロッキングに関する決定では、通信の秘密の観点からも深く議論され、「通信の秘密は侵害するが被害児童の人権を守る他の手段がない場合は緊急避難の法理で違法性は無い」と判断され児童ポルノサイトのブロッキングが導入されました。しかし、今回検討されている著作物の違法アップロードサイトが毀損する権利は財産権であり、直ちに生命や身体に関わらない財産権保護のために緊急避難を違法性阻却事由としてブロッキングを実施するのは不適当であると多数の法曹関係者から指摘されています。
時代に合わない技術と消費者への危険性
ブロッキングは、新技術の開発や普及により効果が限定的になりつつあります。2018年の現在では常時暗号通信(HTTPS)が一般化し、正当性を確認するDNSSECの普及も進みました。DNSによるブロッキングは15年近く前に開発され、技術的な有効性には当時から疑義が示されていました。2018年に打ち出す対策としてはそもそも時代遅れではないでしょうか。加えて海外のDNSを利用するスマホアプリなどが配信されてしまえば、国内のISPにブロッキングを要請しても完全に無意味なものとなるでしょう。そもそもブロッキングという手段で大元の海賊版サイトが消えるわけでも著作権者の財産権が回復されるわけでもありません。
また、ブロッキングの迂回が習慣化した場合、悪意あるDNSサーバをユーザーに設定させることで中間者攻撃を行うサイバー犯罪が増加する可能性があります。これは全消費者、特に未成年者を、これまでにないサイバー犯罪リスクの元に置くことになります。
海賊版対策は重要
私たちは、海賊版サイトを容認するために、この政策の危険性を指摘しているわけではありません。『漫画村』のような悪意あるサービスの撲滅には、まずは適切な司法手続が必要です。さらに必要に応じて、海賊版対策の実効性を上げるため、ブロッキング以外の立法措置の検討をすべきと考えます。
忘れてはならないのは、クリエイターへの適切な対価の還元やコンテンツへの多様なユーザーニーズに合わせたサービスを積極的に開発していくことが、こうした海賊版サイトの最終的な撲滅へとつながる王道の道筋であることです。この問題の最終的な解決には、権利者団体だけでなく、IT業界から消費者団体までさまざまなステークホルダーが協力しあわねばなりません。
わたしたちは我が国の未来に禍根を残すようなブロッキング制度の導入には反対です。
以上