【意見書】《消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転についての意見》

申し入れ・要望

2016年1月14日

自民党消費者問題調査会 宛

消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転についての意見

主婦連合会

 東京圏への一極集中の解消と地方創生が重要な政策課題であることに異論の余地はありません。しかしながら、日本の生活者・消費者のくらしを守る消費者行政は、地方創生の視点からも極めて重要であり、消費者庁・国セン・消費者委員会の地方移転による消費者行政の機能低下は、日本全国の生活者の損失にほかなりません。
消費者庁の創設を要望し、やっと実現したという思いを持つ消費者団体として、その地方への移転には、断固反対いたします。

地方格差の解消のために、地方消費者行政の充実強化を国政レベルで推進する消費者庁
■ 消費者庁創設時に、国会でも熱心に議論されたとおり、消費者被害救済の地方格差をなくし、全国どこでも消費者相談が受けられ、被害救済、被害防止がはかられるようにすることは、消費者庁の大きな使命のひとつです。消費者庁は設立以来、地方消費者行政充実強化のための企画立案を続けており、昨年は消費者安全法を改正し、各地方での地域連携により高齢者等ぜい弱な消費者を守る取組みがスタートするなど、まさにこれから地方の消費者を守る取り組みが進められようとしているところです。これは、増え続ける高齢者の消費者被害を防ぐ上で極めて重要です。「消費者のいる現場は日本全国にあるから、消費者行政はどこでもできる」というのは詭弁です。全国の消費者のための政策立案、法改正という機能が、どこでなら十分に発揮できるのかという視点でみれば、地方移転が、全国にくらす生活者・消費者にとっての損失になることは明らかです。

消費者事故の調査能力は大きく後退し、緊急対応にも支障をきたす
■ 消費者安全調査委員会の設置も、調査されずに放置される消費者事故をなくすために、消費者庁創設の国会において約束されたものでした。設置してまだ3年余りの消費者事故調もまた、これからが正念場です。全国どこで起こるかわからない事故のための調査機関はどこからもアクセスの良いことが、迅速性の面から必須です。また捜査との証拠物の共有や、業所管官庁との調整等の視点からも、地方移転は、その機能発揮において極めて大きなマイナスであることは誰の目にも明らかです。
 また、大規模な食品事故等が起きたときなどに緊急対応にあたるという、閣議決定されている消費者庁の役割も、地方移転により、その責任を果たすことが極めて困難となります。

国センが中央部にあることは、地方の消費者にとっての利益
■ 国民生活センターの存在は、消費者相談の地方格差をなくすためにも極めて重要です。地方のセンターや窓口では、例えば最新の情報通信サービスに関する情報や知識などが相談員に不足している場合があります。国センの経由相談は、多くのベテラン相談員が、各地の相談員からの相談を受け付け、情報提供、アドバイス、あるいは相談をひきとってあっせんを行なうなどの対応をしています。国センの相談員の多くは家庭を持つ女性の非常勤職員です。とても地方に移って業務を続けることはできません。地方移転によって人材が確保できなくなれば、日本全国津々浦々の消費者相談員の「頼みの綱」が細く弱くなってしまい、地方の消費者の被害救済にとって明らかなマイナスです。

弱小の消費者行政機関だけが地方移転することを、ITの活用でカバーすることは不可能
■ ITを駆使するということが言われますが、テレビ会議等は、同一組織内での会議であれば成立するとしても、消費者庁の業務に伴う、他省庁との調整、折衝、国会議員の方々へのご説明、事業者への説明や指導などを考えると、とてもITを駆使することで、現在の機能が保たれるはずがありません。霞が関の巨大官庁その他、国の機能のほとんどが中央に残るなかで、もっとも弱い、ひとりひとりの国民を守る機能をもつ消費者行政機関のみが地方移転するということは、生活者・消費者を守る行政を軽視、否定することと同じです。「未来」を見据えて移転するということも聞かれますが、それでは、これから長い年月消費者行政が後退することを、地方創生の見かけ上の成果を一つあげることの引き換えとしてしまうことになります。

■ 地方創生は極めて大切です。しかし、中央官庁等の地方移転を一つでも実現すること、そのこと自体が目的化することで、全国の生活者に対する行政の機能、価値そのものを損なうということは、絶対に避けていただきたいと切に要望いたします。

以上