2020年11月13日
ビール酒造組合代表理事 宛
交通広告の全面自粛を含む抜本的な対策を求める要望書
アル法ネット(アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク)
特定非営利活動法人アスク
主婦連合会
ご承知のように、酒類業界には、飲酒に関する連絡協議会が定めた「酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準」があり、「(3)広告・宣伝の際の留意事項」として、以下の記述があります。
ヌ 公共交通機関には、次の広告は行わない。
(イ) 車体広告
(ロ) 車内独占広告
(ハ)自動改札ステッカー広告
(ニ)階段へのステッカー広告 (駅改札内を対象)(ホ) 柱巻き広告 (駅改札内を対象)
上記の5つは「強制視認性の強さ」が過去に問題視され、業界として自粛に至った経緯がありますが、これら以外にもインパクトの強い広告手法が次々開発されている現状があります。
今回、アスクの調査により問題事例が複数見つかりましたが、上記とはちがう手法でした。
そもそも、駅・電車などの交通機関は、不特定多数が利用する極めて公共性が強い場です。乗降客には20 歳未満の青少年も含まれ、ドクターストップで禁酒・断酒中の人や飲めない体質の人もいます。また、早朝からの通勤・通学や、勤務中の移動時に酒類広告はなじみません。
交通広告は、駅や電車を利用するときに意図せず目に飛び込む「強制視認性」が前提となっています。健康問題・社会問題を引き起こす側面をもち年齢規制もある酒類の広告にはふさわしくないと、私たちは考えます。この点を押さえずに自粛項目を追加するだけでは、イタチごっこになります。
アルコール健康障害対策基本法第 6 条に定める事業者の責務に則り、交通機関の公共性と酒類の特殊性の根本に立ち返って、交通広告の全面自粛を含む抜本的な対策を早急に検討されるよう強く求めます。
〈交通広告に関する調査より〉
●問題手法1:壁面を占める巨大サインボード
JR 渋谷駅ハチ公口改札内コンコースで、キリンビールが長期展開中です。山手線ホームへの階段と改札口の間にあり、B0サイズの十倍程もある巨大ボードなので必ず視野に入ります。また、長期掲出により、反復接触性(刷り込み効果)も高まります。ハチ公口を利用する 20 歳未満の通勤・通学客は、何ヵ月も、身長の倍以上ある酒類広告を日々視野に入れながら、その脇を行き来させられているのです。
●問題手法2:通路壁面を占有するポスターセット
4 月に、アサヒビールが新宿西口地下通路メトロプロムナードで、9%のストロング系チューハイの新発売に合わせ、漫画とのコラボ企画「アサヒもぎたて STRONG×金田一 37 歳の事件簿」を、1 週間展開しました。話題性が売り物の、メトロスーパープレミアムセットと呼ばれる広告手法です。
マイナビニュースによると、1 面が B0 サイズ 20 枚。A~D の 4 面を使っているので、B0 サイズ 80 枚分、全長約 80m にわたる巨大スペースで、徒歩で約1分かかります。強烈なインパクトです。
通路の片面だけだからいいということにはなりません。酒類と漫画とのコラボ企画も問題です。
●問題手法3:フラッグ広告
●問題手法4:デジタルサイネージの連続使用
2 月にサントリーが、池袋駅東口コンコースで、天井のフラッグとデジタルサイネージを組み合わせた、プレミアムモルツの広告を展開。天地両方の空間をジャックしているようすを、通行人が Twitter に投稿しています。
デジタルサイネージは、4 面使わなければ柱巻に当たらないと業界では考えているようですが、一方向から見れば空間占拠になる上、一斉に動くのでインパクトが出るため、連続使用は問題です。
フラッグ広告について、「交通広告ナビ」は、こうアピールしています。「フロア上部に吊るされた広告は視認性も良く、なによりも空間のジャック感がかなり強い商品となっております。西武線以外にもJR・東京メトロ・東武を利用される方も通るエリアなので、不特定多数の駅利用者へアピール可能な商品です」
●問題手法5:電車内ビジョン広告(パラパラ動画)
2 月に、サントリーが山手線車両で、プレミアルモルツのビジョン広告(トレインチャンネル)をやっていました。
業界にはパラパラ動画はよしとするという基準があるようですが、これも問題です。
●その他、強制視認性が強く酒類広告に用いると問題がある交通広告の例
・横断幕
・フロア広告
・壁面への大型シート張り
・エスカレーター脇の壁面等へのポスター連続貼り
・コインロッカーへのシート貼り
・ホームドア広告
・駅構内でのイベントなど
以上
【参考資料】
1) 交通広告とその特徴
● 交通広告とは
交通広告とは、電車・バス等公共交通機関に掲出される広告の総称です。例えば電車内における「中吊りポスター広告」や「まど上ポスター広告」、駅構内における「駅電飾看板広告」や「駅貼りポスター広告」等の広告があります。
最近ではよりインパクトの強い広告表現・広告媒体に関心が高まっており、広告媒体の大型化や音が出るもの、動くもの、立体的なものまで、高度な技術力を駆使したものや、クリエイティブの富んだものが交通広告を後押ししています。(後略)
● 交通広告の特徴
1.接触率の高いメディア
交通広告は接触率が高く、テレビや新聞に匹敵する高い接触率を持っている。
特に都市圏ではこの傾向が強く、通勤や通学などの足としての交通機関の特性を反映している。
2.強制視認性が強いメディア
テレビや新聞・雑誌と違い、駅や電車内という空間に掲出される交通広告は、一定時間に渡って自然に受け入れられる。
または半ば必然的に目に飛び込んでくるというように、強制視認性が強いメディアである。これは他のメディアにはない交通広告独自の特長である。
3.反復接触性の高いメディア
通学や通勤の手段として利用している会社員や学生などは、定期券を所有しており、日常的に駅や路線を使用している為、交通広告に複数回触れる可能性が高い。
駅や路線利用者は反復して広告に触れるため、一度見た広告の記憶をつなぎとめる効果も発揮する。
「交通広告com」より https://www.transit-ad.com/useful/about/
2)アルコール健康障害対策基本法
(事業者の責務)
第六条 酒類の製造又は販売(飲用に供することを含む。以下同じ。)を行う事業者は、国及び地方公共団体が実施するアルコール健康障害対策に協力するとともに、
その事業活動を行うに当たって、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止に配慮するよう努めるものとする。
(不適切な飲酒の誘引の防止)
第十六条 国は、酒類の表示、広告その他販売の方法について、酒類の製造又は販売を行う事業者の自主的な取組を尊重しつつ、アルコール健康障害を発生させるような不適切な飲酒を誘引することとならないようにするために必要な施策を講ずるものとする。
以上